登入ずっと恋愛なんてそっちのけで仕事一筋にバリバリやってきた、いわゆるバリキャリ女の二十八歳・尾崎茜は、酔い潰れた翌朝、まったく見憶えのない部屋のベッドで下着姿で目を覚ます。 そこはなんと、同じ会社に勤める社長の御曹司で、二つ年下の冴島稜也の部屋だった! 自分には恋の才能がないんだと嘆く茜に、彼は言う。「僕はずっと、茜さんのことが好きだったんです」と。そして、「僕と付き合いませんか」と交際を申し込んできて……!?
查看更多――週明け、私は土曜日に新しく購入したスーツとブラウス、靴で出社した。メイクも少し変え、女性らしい可愛らしさも出してみた。 〈冴島物産〉は丸の内に本社ビルを構え、その高さは地上三十階・地下二階の三十二階建て。東証一部に上場している大手商社で、国内でもトップクラスの一流企業に数えられている。「――おはよう」「おはようございます、茜さん。今日は何だかいつもと雰囲気違いますね。なんかキラキラしてます」 エントランスホールで受付嬢の女子たちに挨拶すると、そのうちの一人である宮部里菜ちゃんがイメージチェンジした私を褒めてくれた。彼女は入社二年目の二十四歳で、私の大ファンを公言してくれている子である。 もう一人の受付嬢は彼女の二年先輩で、冴島くんとは同期の榎本美|
この言葉が、私が恋愛するうえで足りないものを言い表してくれている気がした。私に足りなかったのは自分の容姿に対する自信だったのか。「……そういえば今朝、彼も私の容姿を褒めてくれたなぁ。肌がキレイとか、スタイルいいとか、魅力的な女性だとか。それもお世辞じゃなくて、本心から言ってくれてるみたいだったの」「ほらね。彼もそう言ってくれてるんだし、あんたはもっと周りからどう見られるかを考えた方がいいと思う。美容面とかスタイルキープには気をつけてるみたいだから、あとは服装とメイクのしかたを変えるだけでモテ要素はグンとアップするはずよ。通勤のファッションに関しても、実用的なだけじゃなくてちょっと女性的な要素をプラスするとか」「なるほどねぇ……。確かに私、通勤用の服ってパキッとしたビジネススーツしか持ってなかったかも。それも、同じような型で色違いばっかり」 つまり、リクルートスーツに毛が生えたような(決して物理的な意味ではなく、たとえである)おカタいスーツということである。それじゃ、色気がないと言われても仕方がない。「そうなの? もったいない! あんたの会社、服装はビジネススーツじゃないとダメってことはないんでしょ? だったら、ちょっとブラウスにフェミニン要素を取り入れるとか、女性的なピンクとかクリーム色を選んでみるとか」「あー、なるほどね。でも、正直言うと今、ちょっと手持ちがね……。口座にはまだが残高あるからカードを使えば問題ないんだけど、給料日前だしあんまり高い服は買えないのよね」 私はここで、すごく切実な問題を姉に打ち明ける。来週には今月分の給料が振り込まれるのだけれど、それまで約一週
「それってさ、茜のことが好きだから、他の女子たちにはあえて感じ悪く接してるんじゃない? 『僕は他の女性になびくことはあり得ません』っていう意味で」「なるほどねぇ。っていうかお姉ちゃん、男ってみんなそういうものなの? 好きな人とそうじゃない人とで態度を変えるとか。それってすごく非効率な気がするんだけど」 〝非効率〟なんて多分、仕事でしか使わない言い回しだから恋愛ではそんな言い方しないのだろう。こういうところがきっと、私は可愛くないのだ。「ううん、みんながみんなそうってわけじゃないと思うよ。うちのダンナみたいに、女の子にモテたくて仕方ないっていう男もいるしね。だからって浮気性ってわけでもないんだけど。その彼はきっと、茜に対して誠実でいたいだけなんじゃない?」「…………そう」 つまり、彼の真面目さゆえということか。それは分からなくもないけれど、やっぱりこんなのは生きていくうえで非効率だと私は思う。彼にとっても損でしかないから。「でもね、彼、私にはホントによく懐いてるし優しいの。今朝だって二日酔いの私のために頭痛薬くれたり、わざわざお粥まで作ってくれたり」「お粥、作ってくれたの? 美味しかった?」「うん。優しい薄味で、梅干しと昆布の佃煮までつけてくれてね」「あら、マメねえ。なんか甲斐甲斐しくていじらしいじゃん。可愛いねぇ」「お姉ちゃんがそう言うと、なんか別の意味に聞こえるからやめて」 既婚者が年下の男に「可愛い」と言うのは、何だかアイドルや二次元の男性キャラに熱を上げるのと同じように聞こえるのはどうしてだろう? 姉は義兄との結婚生活に何か不満でもあるのだろうか?「そうかなぁ? ……あ、じゃあ逆にこう考えてみたら? 他の女子には無愛想な彼の笑顔とか優しいところ、自分だけが独占できるんだって。それ、自分だけの特権だってね」 姉は完全に、私が冴島くんと付き合う前提で話しているらしい。まだそうと決まったわけではないし、そもそも私は彼のことをただの可愛い後輩としか思っていないのだ。恋愛感情は、ハッキリ言ってないに等しい。……あくまで現時点では。「……私は別に、彼を独占したいわけじゃ……。無愛想なのは社会人としてどうなのかなって思ってるだけで」「はいはい、そんなにムキにならないの。ホントにただの後輩だと思ってるなら、どうしてそこまで彼のこと気に
「――ねえ、お姉ちゃん。私の恋愛がいつも上手くいかない原因って何だと思う?」 ランチのパスタを食べながら、私は姉に訊ねてみた。こういうことは本人には分からなくても、客観的には分かることもあるかもしれないから。「……そんなザックリ訊かれてもねぇ。逆に訊くけど、あんた自身は何が原因だと思うの?」「えっと……、服のセンスが悪いことと、可愛げがないこと……かな。男に媚びないし、仕事では男どもと対等に渡り合ってるし」「そうねぇ……。服のセンスはともかく、男に媚びないところとか、女だてらに仕事バリバリやってるところはあたし、むしろ羨ましいくらいだよ。どっちもあたしにはない、あんただけの長所だと思うし」「羨ましい? もうすぐ三十に手が届く歳なのに、婚期どころか恋愛適齢期も逃しまくってる私が?」 姉の反応は意外なものだったので、私は面食らった。すでに家庭を持って、仕事もしながら幸せを掴んでいる姉が私のことを「羨ましい」と思っているなんて。「茜、あんた卑下しすぎ。何も結婚や恋愛だけが女の幸せってわけじゃないでしょ? 中には仕事がイヤだから結婚に逃げる女だっているんだから。……あ、あたしは違うわよ? 違うけど! そんな中でさ、あんたは自分の希望どおりに総合職で今みたいな大企業に入社して、今は出世コース最短ルートの部署でチーフになってるんでしょ? バリキャリ女のお手本みたいな生き方できてるじゃない。仕事が生き甲斐っていう女の幸せだってあると思うよ?」「うー……、そうかもしれないけど。私だって彼氏はほしいし、いつかは結婚もしたいの。確かに、自分の意志でバリキャリの道を歩んではいるけど、それで人生終わるつもりはないんだから。……だから、私に足りないものって何かなと思ってお姉ちゃんに訊いたんだけど」 私って欲張りなんだろうかと、ふと思った。姉は自分の道を歩んでいる私を羨ましいと言い、私はごく普通の女としての幸せを掴んだ姉を羨んでいる。どちらも欲しいなんて、私はやっぱり欲張りなのかな? どちらかを諦める必要なんてないはずなのに。 そして、ふと思い浮かんだのはなぜか冴島くんの顔だった。……いやいや! 彼とは昨夜、何もなかったはず。彼は私のことが好きみたいだけれど、だからって私まで彼のことを異性として意識するのは違うんじゃないの?「……茜、もしか